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transit

Granada

いつのまにか、あたりはだいぶ暗くなっていた。
遊んでいた友達と別れて、自転車をこぎ出す。
しおれたひまわりが、畑いっぱいに倒れている。
秋は冬の匂いがするな、と思いながら
でこぼこの小道を、砂ぼこりをあげて家をめざす。

そういえば、今日は、おばあちゃんが
トマトとバジルとセロリのスープをつくるって言ってたっけ。
ぐつぐつと煮えるなべのふたを開けた時の、
あの匂いを思い出すと、おなかがキュっとちじむ。

クラスメイトのマルセルとケンカをして、
口をきかなくなってからもう何日たつだろう。
最後にマルセルと話したのは、工作の授業で一緒にヨットをつくっていた時だ。
木をくり抜いてつくった船体にマストを差し、そこに、
父さんの古いワイシャツの切れはしを取り付けている時に言い合いになった。

あいつは時々、変につっかかるような言い方をする。
わざとなのか、そういうしゃべり方なのか。
その前に、こっちの方が何かいやなことを言ったのかな。

頭のずっと上をセスナ機が通り過ぎる。
自転車を止めて首をおもいきり曲げて見上げる。
セスナ機がつけているライトは、空を飛んでいるときに、
いったいなにを照らしているんだろう、と思う。

教会の鐘の塔が夕暮れの中で、暗くそびえている。
町に入り、夕飯のしたくの音がする路地をすすむ。

それにしても、セスナ機のエンジンの音は、かっこいいな、と思う。
バタバタバタバタという音は、石みたいに固くて、胸に響いてきて、
なんだか元気が出る。

家に入るとおばあちゃんに、「はやく手、洗っておいで」と言われた。

手を洗いながら、今度の工作の時間には、
マルセルとセスナ機を作ろう、と思った。





Granada

by ayu_livre | 2007-07-05 08:05