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transit

shichirigahama


かわいた夏の夕暮れ。
妻の誕生日をするために、
七里ケ浜の断崖をのぼったイタリアンレストランへ。
西の空が黄金色に輝くのを、
クルマのバックミラーでちらちらと見ながら。

江の電の線路をまたぎ、
草木が茂る細い静かな崖の小路をのぼりきると、
オープンテラスのレストランがあらわれる。

にぎやかな会話。食器の音。ウェイターの声。眼下の波の音。
気持ちのいい風。シルエットになる江ノ島と富士山。
海沿いに連なる、心地よく疲れた赤いテールランプ。

まずは、スプマンテで乾杯。
暑かった夏の日の夕方、甘い飲み物が身体にしみこむ。

夕闇が濃くなるにつれ、波の音が大きく聞こえる。

西の空に、最後まで、富士山の美しいシルエットが残る。
夏のこの時期は、毎日のようにどこかの海岸で花火大会があって、
以前、ここからも見たことがある。
でも、花火があがらない、静かな夕暮れの湾も、かえって味わい深い。

ウエイターが蝋燭のランプをそれぞれのテーブルの上に置くと、たちまち夜。
海沿いの渋滞がほどけてきて、暗い海に、白い波頭がひらめく。
ドルチェは量があるのでひとつ。
レモンソルベ。
半分くらい味わって、あとは、溶けるままにまかせて、夏の湾をながめる。

帰りのクルマで、葉山のマリーナから放送している
湘南ビーチFMを聞いていると、ブルースが続けてかかる。
ブルースなんて、珍しいな、と思う。
ボ・ディドリーが歌い、ハウリング・ウルフが歌う。
真夏の夜の漆黒の海のように豊潤な音楽。

それから、しばらくブルースを聞きながら、
断崖のレストランのテーブルの上で、
ゆっくりと溶け続けるレモンソルベのことを
ぼんやりと考える。




shichirigahama

by ayu_livre | 2007-08-19 06:29