transit

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shiena

十二時十五分の列車を待っている。
プラットホームにはヒバリの鳴き声だけが聞こえる。

ローマの大学で知り合った友人の実家に
今年も二泊お世話になった。

友人の家は、シエナから10㎞ほど離れた丘陵にあり、
彼と彼の両親は、いわゆるアグリツーリズモの看板を掲げ、
古い酒蔵を改修して旅行者を宿泊させている。

友人とは、芸術論のクラスで仲良くなった。
ある日、フェリーニを扱った講義の後、
バールで、苦いエスプレッソを飲みながら彼が言ったことを覚えている。
「フェリーニの一本っていったら、俺は、アマルコンドだな。
 あの綿毛がキラキラ舞う結婚式のシーンは最高だよ。
 実際にあんな結婚式に居合わせることがなかったとしても、
 アマルコンドを観たひとは、まるで自分の人生にいい思い出が
 できたように感じるんじゃないかな」

大学卒業間近に彼の父親がワイン棚から落ちて、大怪我をすると
彼は、あっさりと大学を辞め、実家のアグリツーリズモを手伝いはじめた。

ミラノの映画評論を専門にしている出版社に就職してからは
毎年、春先のオフシーズンに、彼の実家に遊びに来ている。
来るたびに、極上のハウスワインをふるまわれ、
暖炉の炎を眺めながら、いろいろな話をする。

今回も、友人は、送迎用のフィアットムルティプラで駅まで送ってくれた。

ホームのベンチに座り、時計を合わせる。
いつものように「じゃ、また来年」といって
ムルティプラのドアをしめる瞬間の彼の笑顔の余韻が残っている。
来るたびに食べきれないほど手料理を出してくれるおばさんと
ニコニコしながら自慢のクラッシックレコードコレクションを
聞かせてくれるおじさんの余韻が残っている。

あたりに広がる春の冷たい空は、がらんとしている。



Shiena
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by ayu_livre | 2008-04-13 11:32