transit

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Miami

ダウンタウンにあるその店に、毎日のように通っていたのは、
かかっている音楽が抜群だったからだ。

Timmy Thomas、Little Beaber、Sly&Family Stone。
ストイックでありながら詩情豊かなファンクネス。
たっぷりとタメのあるリズムとリズムの間には、あらゆる夏の宵闇が凝縮されている。

「チャイニーズが、マイアミソウルで肩を揺らしてるのをはじめて見たよ」
とてもいい感じにジンライムがまわりはじめてきた時に、酔った男が話しかけて来た。
チャイニーズじゃない、メイド・イン・ホンコン、イングリッシュとのハーフだ。
そう説明したが、男はろくに聞かず、マイアミソウルについて話し続けるので、
TKレーベルのシングルは、ほとんど持ってる、と言うと
隣にすわり、バーテンダーに、ジンライムを二つくれ、と叫んだ。

Little Beaberの〈Party Down〉に合わせて、黒人の女同士がゆっくりと踊っている。
ソウルミュージックについて、かなりの時間話しこんだあと
しばらく黙ってから、男は自分のことを話し出した。

「詳しくは言えないけど、おれは、コンピュータでアニメーションをつくっているんだ。
 実は、問題があって困り果てているんだ。
 おい、眠ってないよな?まあ、聞き流してくれていいけど。
 今、つくっているのは、全身にふさふさの毛の生えたモンスターの話なんだ。
 そのモンスターが、人間の女の子を愛してしまう。
 でも話の最後の方で、モンスターは、女の子と別れなければならない。
 女の子は幼くて、もう会えないってことがわからない。
 最後に、モンスターは、そのふさふさとした両腕で、
女の子をそおっと包むように抱いて、お別れをする。
 だから、モンスターのふさふさとした毛なみは、
 悲しいくらいやさしい感触でないとだめなんだ。
 そして、その感触が、どうしても上手くつくれないんだよ」

黒人の女達は、どこかに行ってしまっていた。
だいぶたってから男に言った。
「そのアニメーションだけどさ、なんとかハッピーエンドにしてくれよ」
男がグラスを置いて酔った目でこちらを見る。
「だって、悲しすぎるだろう?」
Sly Stoneが、つぶやくように〈Ke Se Ra Se Ra〉を歌っている。


Miami
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by ayu_livre | 2008-07-22 02:29