transit

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Portfino

十一月の冷たい雨が降っている。
雨は少量だが、ポルトフィーノへと続く狭い車道は満遍なくぬれている。
V6エンジンを積んだAlfa Romeo Spiderを駆っての
週末のドライブは、私の神聖なルーティンワークである。
ミラノでのあわただしく人間性に欠いた一週間をきれいに洗い流す。

アクセルとエンジンとの関係や、
ステアリングとコーナーとの関係に神経を研ぎ澄ます。
サイドミラーに映る前衛的なグルーブが寸分の迷いもなく主張する、
積み重なる歴史からまっすぐに未来へ向かう意志に思いを馳せ、
独特な匂いのするインテリアに深く身を沈める。
Spiderを生み出したチェントロステーレとピニンファリーナのことを考え、
ミレッミリアを駆け抜けたタッツィオ・ヌボラーリの爆音に耳を澄まし、
かつてベルニーニやミケランジェロが美しく刻み出した
イタリアの文化そのものを全身で体感する。
冬の緑をぬらす静かな雨の中での濃密な時間。

ポルトフィーノの港へ降りてゆく手前。
ホテルスプレンドールを向かい見る斜面の中腹にそのレストランテはある。
広いガラス張りのエントランスには、オーナーが所有する
Alfa Romeo 6C 2500 Villa d'Esteが展示されている。
私は、週末毎に“彼女”に逢いに来る。
いくつかの輝くライトの下で、磨きあげられた『彼女』は、
私に、より広い世界の存在と、気の遠くなるような時間の流れを
訪れる度に何度でもレクチャーしてくれる。

港に面したショップやカフェに夕方の灯りが灯る。
ミケランジェロ・アントニオーニの映画の中で、ソフィー・マルソーが働いていた
エンポリオ・アルマーニのショップにも。

苦味の強いエスプレッソを飲み干す頃には、雨はすっかりあがっていて
急速に東へ流れてゆく雲の間から金星が見えた。

ソフトトップを開ける。
冷徹な外科医のようにレザーの手袋を両手に深くはめ
ハーフコートの襟にあしらわれたミンクの毛並みを首に感じながら
Spiderをスタートさせる。
胸の中を冬の空気だけが通り抜ける。


Portfino
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by ayu_livre | 2008-11-03 08:24