transit

Salzburg

ベッドサイドのテーブルにおいてあるiBookを起動させる。
さっきまで、下のダイニングで息子夫婦と妻が私の誕生日を祝ってくれていた。
妻は、隣で、ポール・ボールズが書いた地中海紀行を読んでいる。
外では、ザルツアッハ河を渡ってきた十二月の冷たい風が、夜の木々を騒がせている。

郵便局員として働き出して三十年目にあたる昨年の十一月、
息子夫婦がわたしに、iBookをプレゼントしてくれた。
それから一年経ち、私のブックマークには、
私の好きなRolling Stonesのサイトがつらなり、
メールのアドレス帳には、年がいもなく参加したBBSで知り合った
世界中のStonesファンのアドレスが並んだ。

なぜか、しばしばメールをくれる十九歳の女の子からメールが届いていた。
彼女はサンディエゴのダイナーでウエイトレスをしている。


 HAPPY BIRTHDAY!!!!!!!
 クリスマスの直前にバースデイなんてゴージャスですね。
 今日、うちのお店は、七十歳以上の老人が集まる『シルバーハワイアンクラブ』の
 クリスマスパーティで貸し切りでした。
 老人たちは、二時間以上も大音量のハワイアンで入れ代わりたちかわり踊り続け、
 いい加減に頭が痛くなってきたので、こっそり音楽を
 Stonesの 〈Honky Tonk Women〉に変えて流すと、そのまま
〈Honky Tonk Women〉に合わせてフラを踊っていました。
 では、これからも、この人たちみたいにお元気で。



メールには、MPEGの画像ファイルが添付されていて、開けてみると
手ぶれする画面の中で、ゆったりとして着心地の良さそうな服を着た老人達が
本当に、 〈Honky Tonk Women〉に合わせて幸せそうに踊っていた。


 天国から届いた映像のようです。ありがとう。


とお礼を送信してiBookを閉じた。


本を持ったまま眠ってしまっている妻の手から本を取り、
妻のサイドテーブルの灯りを消す。
ベッドに入り、妻に、それから息子夫婦に、そしてサンディエゴの女の子に、
感謝の言葉を声には出さずに言ってから目を閉じた。



Salzburg
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by ayu_livre | 2009-12-20 09:01