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Manchester 2

おれのアパートの隣の部屋には、スティーブという名前のじいさんが一人で住んでいる。
おれは毎朝、アルバイトに行くとき、ミミをじいさんにあずける。
ミミは、前の彼女が拾って来た雑種の白い猫。
他の人間にはビクつくくせに、おれに対してはいつも強気。
でも、なぜかスティーブじいさんには、なついていて、
この前、おれが帰って来ると、二人で仲良く、Top of the Popsを見ていた。

じいさんは、アパートの階段で転んでから急に老けた。物忘れもひどくなった。
でも、まあ、おぼえてなきゃいけないこともそんなにある訳じゃないしね。

じいさんは、時々分けのわからないこと言うので
おれは、適当に相づちをうって、聞き流してる。
今日も、アルバイト帰りにじいさんの部屋で話してたら、
突然、「おれは、Stonesのニューシングル持ってるんだぜ」なんて言い出した。
へー、と聞き流してたら、「信じてないだろっ」と言って
クローゼットをガサゴゾとかき回して、ボロボロのEP盤を出して来た。

EP盤には、こう印刷されていた。
Honky Tonk Women/The Rolling Stones Promotion Only July 1969

「ワオッ、これホンモノ?! すげーレアなんじゃないの?どうしたの?」
と驚くおれにじいさんは、まあ落ち着けよ、と得意げに語り始めた。

「69年だよ、ロンドンに居たんだ。7月にStonesをつくったBrianって奴が死んだ。
 Stonesはハイドパークで追悼のためのフリーコンサートを開くって発表したんだ。
 そん時、主催者が清掃のボランティアを募ったんだよ。で、おれはそいつに参加した。
 主催者は、20~25万人の人間が集まるって言ってたが、次の日の新聞を見たら、
50万人が集まったらしい。とにかく一面の人だった。
 そん時、ボランティアには、Stonesのニューシングルだ、と言って
 これが配られたんだよ」

おまえは、良くしてくれるから、欲しかったらあげるよ、と
じいさんは言ってくれたけど断った。「飾っときなよ、これはレアだぜ」
おれは、EP盤を手に取りじっと見つめる。
ミミも、そばに来て、EP盤を検証するように、
真剣な顔つきででクンクンとにおいを嗅いでいる。


Manchester 2
by ayu_livre | 2011-01-01 22:56