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transit

Deauville

僕が生まれたのは、ドゥーヴィルの海岸近く。
大学時代にパリにアパートを借りて住んだけど、
海がない場所で暮らすのはどうも落ち着かない。
海の近くがいいのではなくて、海の近くでやっと普通なのだ。
あの匂い、あの波動、あのなにもない景色と緑の光線がないなんて。

気持ちのいい五月の週末に、昔からの仲間が集まるようになったのはいつからだろう。
みんな、それぞれ遠くから電車やクルマで出かけて来てくれる。
僕と妻と母は、生い茂るエゴの木の下に大きなテーブルを出して
ありったけの料理とありったけのワインを用意してみんなを待つ。

スタートは、スペアリブ。炭火をおこし、
庭のローズマリーをつんで、スペアリブの上にのせて焼く。
パスタやパエリアなんかもはさんで最後は、いつも苺の赤ワインシロップ漬け。
午後中、日が傾くまで大いに飲んで食べる。

僕の密かな楽しみは、前日の夜、マッキントッシュのiTunesライブラリーから
その年、その日だけのBGMを選んで、
日付をつけたファイルをつくり、iPodに入れること。
当日は、iPodと小さなスピーカーをつなげてテーブルの隅に置き、
音楽を小さな音で流しっぱなしにする。
後で聞くと、このファイルには、そこに入っているすべての音楽に
その日の海から吹いてくるサワサワした風や
木の葉からこぶれるまぶしい光や、笑い声が閉じ込められている。

今年もお馴染みの顔ぶれが集まった。
緑の中でおいしい料理とワインといつもの顔ぶれがあれば、
もう会話なんてしなくてもいいくらいくつろいでしまう。

パリから来た女の子は、お母さんの身体の調子が悪いので
陶芸の勉強をやめて、実家のあるアヴィニョンに帰るという。

彼女が帰る時に、今日、iPodでかけていたBGMをCD—Rに入れて
袋に詰めたローズマリーと一緒に手渡した。





Deauville

by ayu_livre | 2007-06-18 00:22