transit

Mexico City

メキシコ・シティ三日目。
同じバルセロナ出身の現地ガイドに連絡し、予定をすべてキャンセルした。
この二日間、独特な匂いのするメキシコ・シティを、
せわしなく観光しているうちに、一日のんびりと過したくなったのだ。

午後になってから街に出かけ、適当に歩いていると、小さな映画館を見つけた。
上映しているは、メキシコ映画のようだった。

監督も主演も聞いたことがない。
タイトルだけは、英語だった。

「SPIDER MAN」


映画は、まるで地味な文芸映画みたいだった。
スパイダーマンであるらしい主人公は、ハイスクールの数学の教師で
彼は、映画の冒頭から、清楚な男子生徒に愛の告白をされていた。

カメラは、男子生徒の熱い視線と、それをかわそうとする主人公を追う。
男子生徒は、いろいろな疑問や相談を主人公に持ちかけ、
主人公は、ならべく冷静に答えようとする。
しだいに主人公は、相談に乗ってあげているのではなく、
相談されて、癒されている自分に気づく。

映画の中の新聞では、確かに連日のスパイダーマンの活躍を報じている。
そして、主人公のクローゼットには、スパイダーマンのスーツがいくつもかかっている。
だが、カメラは、ふたりのもどかしい恋を追う。

八月の激しい雨の日、がらんとしたカフェで、
主人公は男子生徒から最後の相談を受ける。

「他の男子生徒を好きになってしまいました」

主人公は、動揺を隠し、男子生徒に冷静なアドバイスを与える。
男子生徒が、お礼とお別れを言って席を立つ。
去ってゆく男子生徒の指から見えるか見えないかの細い糸が伸びている。
それは、うなだれる主人公の腕から伸びているクモの糸だった。
主人公も気づかない。男子生徒も気づかない。
ウェイターが横切り、その細い糸が切れる。
エンドロール。

Rolling Stonesの〈Spider and the Fly〉を誰かが悲し気にカバーしている。
映画が終わる。


売店のおばさんは、パンフレットなんかないよ、リバイバルだからね、と言い放った。
外に出ると、やはり、メキシコ・シティの独特な匂いがした。
コロナビールが飲みたくなった。







Mexico City

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by ayu_livre | 2007-07-02 03:14