transit

Paris CDG

よく晴れた九月の午後。屋根を開けた黒いAlfa Romeo Spiderで
シャルル・ドゴール空港に向かうハイウェイをとばしている。

助手席のアナは黙ったまま。
V6エンジンの音、タイヤの音、風の音。

アナは友人の娘で、たしか二十歳になる。夕方の便で、ロスアンジェルスヘ飛び立つ。
友人は、離婚してからしばらく、アナと二人で暮らしていた。
十八の時アナは家を出て、ひとりで暮らしはじめた。
それ以来、友人とアナはほとんど口をきいていない。

どういうわけか別々に二人に呼び出され、よく食事をしていた。
少し前に、友人から空港まで送ってやってくれないかと頼まれた。

スタジアムが見えてくる。車線を変え、加速しながらシフトを6速に入れる。
アナが突然、口を開く。
「仕事は大変?」
サイドミラーの中で後方に遠ざかるスタジアムを見ながら答える。
「たいしたこないよ」
V6エンジンの音、タイヤの音、風の音。

「ねえ」
「うん」
「クルマの色、なんで黒にしたの?」
サイドミラーに映るサイドボディの色と造形を少し見て答える。
「Serge Gainsbourgが自分の家の内装を全部黒にしたから」

空港に着き、ボーディングまでアナは一言もしゃべらなかった。
いよいよボーディングという時になってふいに聞いてきた。
「Gainsbourgの曲で、なにが一番好き?」
少し考えて答える。
「〈カナリアはバルコニーに〉」
「知らない」
「Jane Birkinのアルバムに入ってる」
「今度、送って」
「いいよ」

それから、いつものように振り向かない彼女の背中を
いつものように見送ってから、駐車場に向かった。







Paris CDG

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by ayu_livre | 2007-09-12 23:35