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Manton


一月にしてはあたたかい日曜日、レモン祭りの近付いたマントン。
市内で暮らす父は、最近圧力釜を買った。

たまに電話をかけると、
「あの圧力釜はいいぞ、魚の骨まで食べられるぞ」
とはじまる。

しまいに、「圧力釜で煮たブイヤベースをふるまうから夕飯を食べに来い」と言うので、
しかたなく、父の好きなホウレンソウのキッシュを作って妻と出掛けた。


「どうだ、骨、やわらかいだろう、頭も食べれるぞ」
圧力釜で煮込んだタラの身は、たしかにやわらかくておいしい。

「でもさ、すすんで骨を食べようとは思わないよ、頭も。
 身は、たしかにやわらかくておいしいから、それでいいじゃない」
父に言うが、自慢げな父は聞かない。

「試しに食べてみろって、あの圧力釜は本当に凄い、でも目は固いな、残しなさい」
父の親戚から毎年送られてくる白ワインは、いつもおいしい。

「でも、骨は食べたくないなあ...」
父の相棒のケリーが、おすわりしながらしっぽを振って魚の骨を待っている。


妻は、「ほんとにやわらかい」といって、ぺろりと一匹食べてしまった。
さすがに頭は残したが。
僕は、骨も頭も残したので、父は少し淋しげ。


食後は、皆で父の好きなJuliette Grecoのレコードを聞きながら
濃いエスプレッソを飲んだ。
久しぶりに聞くとJuliette Grecoもなかなか悪くないな、と思った。
彼女は、〈La Javanaise〉を歌っている。
まるで、空中にあるなにかとても美しいものの輪郭を、
手のひらでそっとなぞるように。


モナコとヴィルフランシュの夜景が見たい、と妻が言うので、
帰りは海岸線を通っていくことにした。

Peugeot407のステアリングを切りながら、
自分も確かに、いいと思ったものを
強引にすすめることがあるよな、と思い返し、
今後、気を付けよう、なんて考えた。

サイドシートの妻は夜景を見ながらうとうととしている。
バックシートでは、父に借りたJuliette Grecoのレコードが
車の振動に合わせて細かく揺れている。




Manton




























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by ayu_livre | 2008-01-17 02:12