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Havana 2

「そういえば」
Hotel Santa Isabelと刺繍された制服に
そでを通しているときにふと思い出した。
二週間ほど前にマレコン通り沿いのバーで意気投合した男に
Los Van Vanのテープを借りたままだった。

ホテルのパティオでは、スペイン人のカップルが朝食を食べている。
今日は、バラデロに泳ぎに行くといっていた。
二階に上がり、パティオを囲む回廊に置かれた
革のデッキチェアをひととおり拭く。
ベンジャミンの鉢植えに水をさす。
一月のハバナは雲が多く、キューバ人にとっては寒い。
だからこの季節でもバラデロに行きたがるのは外国人だけだ。

屋上に散乱している日光浴用のデッキチェアをひととおり片付けると、
柵にもたれながらたばこに火をつけ、
向いの旧大統領官邸に掲げられたキューバ国旗をしばらく眺めた。
通りのカフェの生演奏がもうはじまっている。
これは、たしか〈Brazil〉という曲だ。

あの男は、この店にはよく来るから、また会ったらその時に
テープを返してくれよ、と言っていた。
だがあの店にはあれから行っていない。
この二週間の間にいろいろなことがあった。
58年型シボレーと61年型キャデラックの派手な事故を見た。
新市街のジェラッテリアに新しく加わった『コーヒー味』をはじめて食べた。
彼女と別れた。
バーテンダーに双児の子供が生まれた。
古い知り合いのボクサーが、ライト級のタイトルマッチでノックアウトされた。
レセプションの女の子が三度目の結婚をした。

バラデロ行きのバスにスペイン人のカップルが乗り込んでいる。
この分だと今日は少し暑くなりそうだ。
たむろしてる鳩をモップで追い払い、〈Brazil〉に合わせて腰を振りながら
屋上の掃除を始めた。


Havana 2
                  
















     
by ayu_livre | 2008-12-01 01:41