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Paris Les Halles

メトロのレ・アル駅から、ほど近く、
1900年代の内装がノスタルジーを誘うエスカルゴが名物のレストラン。
いよいよ明日、日本に帰るという日に大学教授の夫妻が、
送別会を開きましょう、と連れて来てくれた。

大学教授は、数年前、都市再開発の研修のために来日した。
当時、そのプロジェクトの広報を担当していたので、ガイド役に選ばれ
再開発地区の他にヨコハマやカマクラなども案内した。
あの時のお礼に、ということでパリに招かれ、
五日間、パリのモダン建築を案内してもらった。

大学教授の夫妻は二人とも日本贔屓で、いままで数回日本を訪れ、
東京、京都、大阪、そして九州まで足を伸ばしていた。
「アソが見たかったのよ」と奥さん。
「直径が数十㎞くらいのとても大きな外輪山の中が美しい大草原になっていて、
 その中をゆっくり車で走ったの。あそこ、なんて言ったかしら、日本語で」
殻の付いていないエスカルゴがちらばる濃厚なスープにパンを浸しながら答える。
「〈草千里〉ですよ」
「そうそう、〈クサセンリ〉。thouthant miles of glass feildみたいな意味よね
 あなたも行ったことがある?」
「ええ、小学生の時に親と祖父母と一緒に。子供ながらに、その風景に感動して、
 お土産物屋で売っていたポスターを親にねだって買ってもらいました」
「どんなポスター?」大学教授がワインのおかわりをオーダーしながら聞く。
「夕暮れの草千里で、二頭の馬が佇んでいる写真です」

そのポスターは、旅行から帰ると、しばらく自分の部屋に貼っていたが、
いつしか剥がしてしまった。
大学受験の頃、祖父が入院していて、
病院の部屋が殺風景だったので、
草千里のポスターを引っぱり出して持って行って貼ってあげた。
祖父はもう記憶がおぼろげだったから、
覚えているかどうか分からなかったけど、
とりあえず部屋はだいぶ明るくなった。

「あの景色は、とてもきれいで、いまだに現実だったとは思えないわ」と奥さん。
ゲイのウェイターが流暢な動作で、
三人のグラスにワインを注いでくれている。



Paris Les Halles
by ayu_livre | 2008-12-12 01:12