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transit

Capri

ナポリからカプリ島に行く、高速フェリーCapri Jetの最後尾で
妻に背中をさすられている。
三十年前も確かこんな風に背中をさすられていた。

「なんだか、かえって気持ち悪くなるから、いいよ」
と妻に言うが、これも三十年前と同じセリフかもしれない。

あの時は、Capri Jetの大男の乗務員が、私の前に立ちはだかり、
無言でビニール袋を差し出してくれた。

三十年前、私と妻は、結婚式を挙げる新郎と新婦としてカプリ島へ向かっていた。
両家の家族が何人もいたが、船に酔っていたのは私だけだった。

結婚三十年目だし、今度は二人だけでカプリに行かない?
という妻の提案に同意し、今年のヴァカンスが決まった。
ホテルも三十年前と同じアナカプリの断崖にあるホテルを予約した。
そのホテルの部屋からは、夜、はるか対岸のナポリの灯りが見えた。
朝は、ソレント半島の向こうから上る朝日に輝く、銀色の海が美しかった。
テラスで朝食をとっていると、朝一番のCapri Jetが早朝の輝く静かな海に、
ゆるやかにカーブする轍を描きながら港に入ってくるのが見えた。

やっと船酔いが落ち着いて、船内に戻ると、
真っ青な海の向こう、目前に、白くそびえ立つカプリ島があった。

前回も、結婚式で、家族がいて、楽しかったけど、
今回は、ふたりでのんびりしましょうね、と妻は言う。
でも、おそらく、前回入れなかった青の洞窟や、
マリーナ・ピッコロやアナカプリのソラーロ山なんかには行きたがるだろうな、と思う。

妻は鼻歌を歌っている。
さっきまで船内で流れていた「カ〜プリ〜」というカンツオーネのメロディ。
Capri Jetが接岸する。
ヴァカンスに胸を膨らませたたくさんの観光客と一緒に出口に並ぶ。
三十年前と同じように、妻と手をつないで
マリーナ・グランデに降り立つ。


Capri
by ayu_livre | 2008-12-29 09:28